忘れられない場面がたくさんある。関わった人の数だけ思い出がある。どのシーンを切り取っても、いい顔をした人たちがいる。ラグビーワールドカップ(RWC)日本大会は、何度も何度も思い出したい大会となった。筆者は全試合を中継したJSPORTSのコメンテーターとしてのピッチサイドレポート、放送席での解説など務めた。
海外のサポーターに交じって日本以外のチームを応援する日本のファンに感動し、日本代表への声援が勝つたびに大きくなることに胸を打たれた。
2戦目のアイルランド戦、3戦目のサモア戦はピッチからレポートしたが、頭上から降り注ぐ大歓声のシャワーを忘れることはできない。
思わず涙がこぼれたのは、初めて決勝トーナメント進出を果たした日本代表が、南アフリカと対戦した準々決勝の国歌斉唱だった。日本のサポーターが君が代を叫ぶように歌ったのだ。国歌については複雑な感情を抱く人々がいる。
だが、あの瞬間の観客席はただひたすらに日本代表を後押ししたいという思いだけがあった。大型ビジョンにSH流大(ながれ・ゆたか)の泣き顔が大写しになったとき、涙があふれた。
そんな雰囲気を作ったのは日本代表の快進撃だ。プール戦4連勝は周到な準備とハードトレーニングの賜物だ。日本代表は2015年大会のプール戦で3勝をあげながら、勝ち点差で決勝トーナメントに進出できなかった。悲願成就のため、2016年からは「世界一過酷」と称された前体制を超えるハードトレーニングが課された。
2019年の日本代表選手たちは200日以上生活をともにし、勝つための戦略、戦術を頭と体に叩き込み、満を持して開幕戦を迎えた。
開幕戦(9月20日、東京スタジアム)のロシア戦は緊張からミスが相次いだが、松島幸太朗のハットトリック(3トライ)もあり、4トライ以上のボーナス点を獲得する勝利で切り抜けた。
ジェイミー・ジョセフヘッドコーチは、「振り返れば、あの試合が良かった」と話した。精神的に追い込まれた状況で、思うようなパフォーマンスができない中で勝利した。それによって、第2戦(10月28日、静岡エコパスタジアム)は思い切ってリーチ マイケルキャプテンを控え(リザーブ)に回して後半に備えさせ、ピーター・ラブスカフニをキャプテンにすることができた。結果的に途中出場に奮起したリーチの活躍が流れを変えた。開幕時は世界ランキング1位だったアイルランドに勝ったことで日本代表は勢いに乗った。
決勝トーナメント進出を決めたスコットランド戦は、すべてのトライに反復練習の成果が出ていた。松島幸太朗の先制トライは福岡堅樹がオフロードパスを決めたもの。前半26分の稲垣啓太のトライも、堀江翔太、ジェームズ・ムーア、ウィリアム・トゥポウがオフロードパスをつないだ。
「オフロードパス」はタックルされながら次の選手に荷物を下ろすようにパスするところから、「オフ・ロード(荷)」と名付けられている。繰り返し練習してきたスキルだ。40分の福岡のトライは、ラファエレ ティモシーが防御背後にキックを使って福岡を走らせた。防御背後にキックを使う戦法は、2016年からずっと試合で使い続けてきたものだ。
そして後半3分の福岡のトライは、ボールを持つ相手の腕に手を差し込み、引っこ抜いてボールを奪う独走だった。このスキルもニュージーランドからコーチを呼んで練習したものだ。相手チームの的確な分析、勝つための技能の習得など周到な準備こそが快進撃を支えた。そして、ファンの大声援が後押しした。
日本代表は体格のハンディを、猛練習とスピードと技で覆した。大きなサイズが有利だと言われてきたスクラムでも8人でまとまることで互角以上に組み合った。世界中のメディアやコーチがその戦いぶりを称賛した。そして、出身国が7か国にまたがる多様性のあるチームが結束して強豪国に挑む姿に多くの日本人が胸を熱くした。反則が少なく、フェアに戦ったことも誇れるところだ。相手を怪我させるような危険なプレーもなく、レフリーにクレームを言うこともない。フェアに戦い続けた日本代表の快進撃が、日本で初めて開催されたラグビー世界一決定戦の価値を高めた。
日本国民の心を鷲づかみにしたのは、フィールドでの激しいプレーだけではない。試合後、両チームが健闘を称え合う姿、観客席にお辞儀をして感謝を示す仕草などスポーツが本来持つ清涼感を運んだ。「ラグビーって、こんなに面白かったのか」という声を何度も聞いた。
RWC日本大会は興行的にも大成功を収めた。観客動員数は延べ 170 万 4,443 人、1 試合の平均観客数は 37,877 人(台風で中止となったプール戦 3 試合を除く)。最多観客動員は決勝のイングランド対南アフリカ戦の70,103 人で、これは同会場の歴代最多動員記録を塗りかえた(従来の記録は、2002年FIFAワールドカップ決勝)。チケットの販売率は約99.3%。これらの実績は、日本大会が、世界中から高い関心と注目を集めたことを示している。テレビの視聴率も、日本対南アフリカ戦を放送したNHKが平均で40%を超えた。また、日本各地に設けられた16のファンゾーンへの累計入場者数が、RWC2015で記録した100万人を超えた。
神戸のメリケンパークに設置されたファンゾーンもにぎわった。筆者も伺ったが、日本代表のない日も盛況だった。ミュージシャンのライブも行われ、2016年に亡くなった平尾誠二さんのコーナーでは訪れた人々が足を止め、写真や着用のジャージーなどを感慨深げに眺めていた。平尾さんにメッセージを書くコーナーもあり、筆者も書かせてもらった。「平尾さん、ワールドカップ盛り上がっていますよ。うれしいですね」。
神戸市御崎公園球技場では4試合が行われ、以下のような観客動員を記録した。
9月26日(木)イングランド対アメリカ=27,194 人
9月30日(月)スコットランド対サモア=27,586 人
10月3日(木)アイルランド対ロシア=26,856 人
10月8日(火)南アフリカ対カナダ=28,014 人
多様な民族、人種が融合した南アフリカの優勝で幕を閉じた大会は好印象の出来事が多かったが、決勝で敗れたイングランドの選手数名が、すぐにメダルを外したことが物議をかもした。メダルを外した行為自体を批判するのはいい。
しかし、だからイングランドが優勝できなかったというのは違う。外した選手がどんなものを背負って戦ったのか、心の内は知るすべもない。もしかしたら、すぐに後悔したかもしれない。
10年後、20年後に外すべきではなかったと思うのかもしれない。あの行為について考えさせる力がラグビーにはある。そう信じたい。だからこそ、RWC日本大会は、人々の心をつかんだのだから。ラグビーは人の心を開き、素直な感情を表現させる。ラグビーは感情のコントロールを学ぶスポーツだと改めて感じる44日間だった。
ラグビーワールドカップ(RWC)日本大会開幕まで、100日となった。ちょうど100日前の6月12日の週は、全国各地でさまざまなイベントが行われた。筆者も東京のスカイツリーを日本代表カラーの紅白に点灯する式典や、大阪・天王寺での倖田來未さんがHANAZONO応援ソングを披露するイベントなどに参加。神戸でも6月15日、ハーバーランドスペースシアター(神戸市中央区東川崎町1-3-3)で100日前イベントが開催される。そのほか、全国各地で大会を盛り上げるイベントやラグビーの勉強会などが企画されており、RWC日本大会に向かって、いよいよカウントダウンが始まったと実感している。
ホストチームの日本代表は、6月3日、宮崎で行われる強化合宿メンバー42名を発表した。RWCの最終登録メンバー31名は8月下旬に発表される予定だが、その第一関門をクリアした選手たちということになる。キャプテンのリーチ マイケル(東芝ブレイブルーパス)、HO堀江翔太(パナソニックワイルドナイツ)、SH田中史朗(キヤノンイーグルス)、SO田村優(キヤノンイーグルス)、WTB福岡堅樹(パナソニックワイルドナイツ)、FB松島幸太朗(サントリーサンゴリアス)ら2015年大会の主力が名を連ねる一方で、CTB立川理道(クボタスピアーズ)、WTB山田章仁(NTTコミュニケーションズシャイニングアークス)という経験豊富な実力者が落選した。CTB中村亮土、梶村祐介(ともにサントリーサンゴリアス)、WTBレメキ ロマノ ラヴァ(HondaHEAT)ら、2016年以降に頭角を現した選手が多く、4年という歳月を感じるメンバーだ。
この春、ニュージーランドのスーパーラグビーチーム、チーフスの一員として活躍したアタアタ・モエアキオラ(東海大→神戸製鋼コベルコスティーラーズ)もサプライズ選出された。神戸製鋼の選手ではこのほか、PR中島イシレリ、山下裕史、LOグラント・ハッティング、CTBラファエレ ティモシー、FB山中亮平が選出されている。神戸製鋼ではNO8を務める中島は日本代表ではスクラム最前列のPR(プロップ)に挑戦中だ。186㎝、120㎏という恵まれた体格で日本流の低いスクラムを組むことができれば、突進力は申し分なく、日本代表の大きな戦力になり得る。
また、山中亮平は2015年大会の最終メンバー発表直前に落選した苦い思い出がある。それでも選ばれた日本代表選手にエールを送り続けた姿は潔く、ラグビーファンを感動させた。今回、彼になんとしてもRWCに出てほしいと願うファンは多い。昨季のトップリーグではFBにポジションチェンジして、持ち前のランニングスキルを伸ばし、一皮むけた感がある。夢をかなえてほしいものだ。
6月10日から宮崎で始まったトレーニングの初日、ジェイミー・ジョセフ日本代表ヘッドコーチは「宮崎ではパシフィックネーションズカップに向けて3回合宿を行いますが、今回のテーマはリコネクト、リコンディショニング。今まで築いてきたものを一新してさらに積み上げていく」と目標を語った。まだチームの仕上げ段階ではないということであり、メンバーから外れた選手にもチャンスはある。
日本時間の6月8日深夜、スーパーラグビーに参戦するサンウルブズが南アフリカ共和国ケープタウンでストーマーズと対戦した。結果は敗れたが、後半登場した山田章仁が大活躍したほか、PR浅原拓真、FL松橋周平、長谷川崚太、西川征克、LO大戸裕矢など宮崎メンバーからは外れた選手たちが鬼気迫る表情でプレーしていたのが印象的だった。誰も日本代表入りをあきらめていないのだ。それだけ、日本で行われるRWCというのは選手たちがなんとしても出たい大会だということだ。
6月22日からは、トップリーグカップが始まる。日本代表メンバー外の選手にとってはアピールの最後の場だ。ほんの少しでも可能性がある限り、選手たちは全力でプレーする。神戸製鋼は、6月22日が初戦だ。和歌山の紀三井寺で近鉄ライナーズと対戦する。山中亮平選手不在のなか、FBを務める児玉健太郎選手に話を聞く機会があった。「神戸製鋼はすでに昨年の良いとき以上の状態にあります」と自信を見せた。児玉選手も日本代表経験者であり、虎視眈々と代表入りを狙う。
開幕まで残された日数は二ケタ台。選手たちが夢を追いかけるのと同様、運営に当たる皆さん、ファンの皆さんも、充実した日々を送ってほしい。それぞれの立場で、ポジティブに、悔いを残さないよう、RWCが閉幕するまで走り抜けようではないか。
ラグビーワールドカップ(RWC)日本大会の開幕まで半年を切った。3月初旬に三ノ宮のスポーツパブ「スポルテリア」で神戸製鋼コベルコスティーラーズの有田隆平選手、山下楽平選手をゲストにしたトークライブの進行役をしたのだが、店内は超満員となり立ち見も出るほどだった。
2003年度以来のトップリーグ優勝の効果は絶大である。その日は東京からの移動で新神戸駅から三宮に向かったのだが、地下鉄の切符売り場前の足元にはRWC2019の巨大なロゴがあり、地下鉄で移動すると、ホームドアにもRWC出場国の写真がディスプレーされていた。
神戸もいよいよ盛り上がってきたと嬉しくなった。
神戸での4試合の見どころについては第15回コラムで触れた。神戸にやってくる8チームのなかでは、4チーム(イングランド、スコットランド、アイルランド、南アフリカ)がティア1と呼ばれる世界トップ10の伝統国であり、この国々が日本で試合をするということ自体に大きな価値がある。
ぜひ、4試合とも観戦していただきたい。スコットランド対サモアは接戦になる可能性が高く、日本代表のプールA内での順位を左右する戦いでもある。それ以外はやや実力差があるのだが、2015年のRWCのとき、南アフリカ代表対日本代表もそんな見方をされていた。
つまり、番狂わせの目撃者、歴史の証人になるのであれば、実力差があると思われる試合を見に行かなくてはいけない。
実力的に下と見られるチームの挑戦は、毎度RWCプール戦を盛り上げる。格下と目されたチームの一つのタックル、一つのトライに盛り上がる。それがRWCプール戦だ。
試合前後に世界の人たちと交流するのもRWCの面白さ。ラグビーは社交をとても大切にしている。特にRWCは観客のテンションも高い。世界中からやってくるラグビーファンの皆さんと、いろんな言葉で挨拶を覚えてコミュニケーションを取り、試合後は健闘を称え合う。観客のマナーが良いのもRWCの特徴だ。主に憶えておいてほしいマナーは以下の通り。
1.相手チームの良いプレー、トライにも拍手する
2.プレースキックのときは、静かにする
3.選手をおとしめるような汚いヤジを飛ばさない
4.試合後は相手チームのファンと健闘を称え合う
▼神戸市御崎公園球技場開催の4試合
9月26日(木) 18:45 イングランド 対 アメリカ
9月30日(月) 18:15 スコットランド 対 サモア
10月3日(木) 18:15 アイルランド 対 ロシア
10月8日(火) 18:15 南アフリカ 対 カナダ
今回は、ラグビーというスポーツに詳しくない皆さんに、ラグビーの基本的な見方を説明しておきたい。
ラグビーは、とてもシンプルなスポーツだ。バスケットボールやサッカーがゴールにボールを入れるのと同じように、ラグビーもあのH型のゴールポストの向こうに広がる「インゴール」というエリアにボールを運んでいるだけだ。
インゴールの地面にボールを置けば「トライ」で5点が入る。ボールの運び方は自由で、歩数制限もなく、相手にぶつかって前進してもかまわない。防御側には身体をぶつけて相手を止めるタックルが許されている。そして、相手ボールを奪えば攻めることができる。
グラウンドのあちらこちらで複数の選手が重なり合うようになっているのは、ボールを奪い合っているのだ。手足を使って投げ、蹴り、走り、ボールを奪い合い、倒し合う。人間のあらゆる能力を使って戦うスポーツなのだ。
細かいルールを憶える必要はない。レフリーも、選手たちが安全、公平、快適にプレーできていれば、反則の笛を吹かない。以下の3つを憶えておくと、ほとんどのルールが含まれるので、これだけ頭に入れてもらえば良いと思う。
1.ボールの前でプレーできない
2.倒れた選手はプレーできない
3.相手に怪我をさせない
1は、目指すインゴールの方向に向かって、ボールの前でプレーすることはできないということ。常にボールを持った人が先頭にいて、相手にぶつかっていくのがラグビーの原則だ。
2は、タックルで倒されたらすみやかにボールを放して立ち上がり、タックルしたほうもすぐに立ち上がるということ。ラグビーは常に立ってボールを奪い合うことになっている。
3は、危険なスポーツだからこそ、怪我をしないようなプレーが求められるということ。例えば、タックルは必ず相手をつかんで倒さなくてはいけない。肩でぶつかっていって吹っ飛ばすものや、足を上げて頭から落ちるようにするタックルも反則だ。また飛び上がっている選手へのタックル、肩から上へのタックルも禁止されている。
難しく考えず、それぞれのチーム、選手が特長を生かし、一丸となってインゴールへボールを運ぶところを楽しんでもらいたい。
日本のサンウルブズが参加するスーパーラグビーも開催中で、6月下旬からはトップリーグ16チームと、トップチャレンジ8チームが参加するトップリーグカップが開催される。神戸でも試合が行われる予定なので、RWCの予習の意味も込めて観戦していただきたい。
いよいよラグビーワールドカップイヤーが幕を開けた。気が早すぎるのだが、9月20日の開会式を想像すると胸が高鳴ってしまう。すでに観戦する試合のチケットを確保した方も多いと思うが、これまで行われていたのは抽選販売だった。2019年1月からは、お目当てのチケットを申し込み、先着で買えるようになる。まずは、これまでの抽選販売で落選した人(全部落選、一部落選いずれも含む)の先着販売があり、続いて、一般販売が期間を区切りながら断続的に行われる。
また、チケットを購入後、何らかの理由で観戦できなくなった場合、チケットを定価で再販することができるオンラインサービスも始まる。日本代表の試合や、人気カードの購入は難しいかもしれないが、ニュージーランド、アイルランドなど優勝候補が絡まない試合でも面白いカードはたくさんある。前回のコラムでは神戸で行われる4試合の見どころを紹介した。日本代表戦が開催されないこともあり、神戸のチケットは比較的買いやすいはず。ぜひ、神戸でのラグビー世界一決定戦の目撃者になってもらいたい。
2019年チケット販売スケジュール
・落選者向け特別販売(先着):1月15日(火)20時19分~1月17日(木)23時59分
・第二次一般販売(先着):1月19日(土)10時00分 ~ 3月31日(日)23時59分
・第三次一般販売(先着):5月~
・公式リセールサービス=:5月~
※第三次一般販売(先着)及び公式リセールサービスの開始日時は、後日改めて告知。
神戸のラグビー界にとって、最高で最良のニュースは神戸製鋼コベルコスティーラーズの15シーズンぶりのトップリーグ制覇、18シーズンぶりの日本選手権制覇だろう。2018年12月15日、トップリーグと日本選手権を兼ねたサントリーサンゴリアスとの決勝戦は、55-5という予想外の大差となり、神戸製鋼の強さを印象付けた。さまざまなメディアで優勝の理由などは語られているが、筆者が印象に残っているのは、優勝直後のデーブ・ディロンヘッドコーチの言葉だ。「きょうは、みんながチームメイトを思いやりながら戦っていた。会社の歴史を理解し、平尾誠二さん(故人)のことを思って戦った。チームを誇りに思います」。
15人という大人数で戦うラグビーでは、チームメイトと強固な信頼関係を築き、それぞれの長所を発揮できるように助け合わなければ勝つことができない。それは小学生のラグビーからトップリーグの頂点に立つチームまで変わらない真理だ。そんな当たり前のことを、会社の歴史を改めて学び、チームのカルチャーを再構築することで選手に浸透させたコーチ陣の手腕は高く評価されるべきだろう。グラウンドでのパフォーマンスが抜きんでているダン・カーターがチームを優勝に導いたという見方もあるが、キーマンはウェイン・スミス総監督だ。スーパーラグビーの常勝軍団クルセイダーズの礎を築き、ニュージーランド代表オールブラックスのヘッドコーチ、アシスタントコーチを歴任した名将は、チームのカルチャーを作ることに長けている。
スミス総監督は、ラグビーマガジン(2019年2月号)のインタビューで「ラグビーは、愛がなくては戦えないスペシャルなスポーツです。プレースタイルは、選手も観客も魅了できるものでないといけない」と話している。激しく体をぶつけ合うタフなスポーツだからこそ、選手が自分たちのしていることを愛していなければ勝てないということだ。世界屈指の名将が、才能ある選手が揃うチームに熱い想いを持ち込んでくれたのだから、結果が出るのは必然だったのかもしれない。スミス総監督の下で指導にあたったディロンヘッドコーチは、決勝戦のあとの記者会見が終わると、会見場にいた記者全員と握手を始めた。取材に来てくれた人々への感謝である。清々しい空気が流れた。ラグビーというスポーツが持つ魅力を発信した点でも神戸製鋼の優勝の価値は高い。
平成元年1月10日、全国社会人大会で優勝したときから神戸製鋼の7連覇は始まった。平成最後の優勝も神戸製鋼である。記憶と記録の両方に神戸製鋼の名は確かに刻まれた。そして、平成最後のトップリーグMVPには、ダン・カーターが選ばれた。文句なしの活躍だが、世界最優秀選手を3度受賞しているカーターの競技歴に新たな栄光が加わった。神戸製鋼というチーム名、神戸という地名はカーターのプロフィールにこの先もずっと記されるわけだ。ラグビーがなくても魅力的な街に、世界に誇れる宝物がひとつ増えたということだ。
神戸製鋼の優勝から学ぶべきは、これを読んでいる皆さんが所属するそれぞれのコミュニティーの先人たちの足跡を振り返り、存在意義を問い直すことではないか。それはきっと、神戸でのラグビーワールドカップの盛り上がりにつながると思うのだ。
ラグビーワールドカップ(RWC)2019日本大会開幕まで、300日を切った。200日台に入ると、ぐっと近づいた気持ちになる。参加20チームの最後の枠を争う敗者復活予選は、ケニア、ドイツ、香港、カナダの4チームが集って11月、フランスのマルセイユで行われ、カナダが優勝。最後の枠に滑り込んだ。カナダは9大会連続9度目の出場となる。
カナダは近年の戦績が振るわないが、1991年大会ではベスト8に進出したことがあり、準々決勝でニュージーランドと13-29という好勝負を演じた。日本代表とはRWCで2度引き分けている。今回はニュージーランド、南アフリカ、イタリア、ナミビアが所属するプールBに入る。苦しい戦いになりそうだが、イングランドのプレミアシップのニューカッスル・ファルコンズでプレーしたDTH・ファンデルメルヴァ(WTB)ら海外でプレーする選手もおり、強豪国をどこまで苦しめるか楽しみだ。
カナダは、10月8日、神戸市御崎公園球技場で南アフリカと戦う。神戸の皆さんにとっても注目チームの一つになる。RWCのプール戦は、格下と目されたチームが強豪国を苦しめ、波乱を起こすことが多い。強豪国は決勝戦を見据えて戦い、挑戦者はターゲットを絞って全力で戦うからだ。2015年の日本代表の南アフリカ戦勝利はそのように成し遂げられた。だから実力差があると思われる戦いも見逃せない。一つ一つのトライに、そのチームが努力を重ねてきた貴い価値があるのだ。
さて、出場チームが出そろった神戸での4試合の見どころを改めて紹介しておきたい。試合はすべてナイターで行われる。まずは、9月26日に行われる「イングランド対アメリカ」。11月17日、日本代表に逆転勝ちしたイングランドは、前日本代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズが率い、優勝候補の一角だ。ここは実力差を見せつけるはずだが、アメリカも近年めきめきと力をつけている。2018年4月には、新たなプロラグビーリーグ「メジャーリーグラグビー」(MLR)が開幕し、国内のラグビーへの関心度も高まっている。運動能力の高い選手が多く、そう簡単に負ける戦いにはならないだろう。
神戸での2試合目は、9月30日の「スコットランド対サモア」だ。日本代表と同じプールAのカードで、日本代表の順位に直接影響する一戦だ。2015年大会は、36-33と3点差でスコットランドが勝ったが力は拮抗している。サモアはRWCになると世界中のクラブでプレーする選手が集って最強メンバーを編成する。5日後には日本代表とサモアの試合があり、見逃せない試合だ。
10月3日に行われるのは「アイルランド対ロシア」。アイルランドは2018年のテストマッチ(国代表創同士の試合)で12戦11勝。イングランド、ニュージーランド、オーストラリアにも勝っており、ニュージーランドと並ぶ優勝候補だ。RWCは2度目の出場となるロシアがどのようにトライを奪うのか。一矢報いようと工夫を凝らす戦いは興味深い。神戸での最後の試合は、10月8日の「南アフリカ対カナダ」。1995年大会以来の対戦になるのだが、実はこの試合では乱闘があり、退場者を出す荒れた展開になった。フィジカル面では世界最強ともいえる南アフリカに対し、一歩も引かずにぶつかっていくのがカナダだ。間違いなくタフな試合になる。スコットランド対サモア以外は点差がつくのではと予想されているが、だからこそ、挑戦者の奮闘が感動を呼ぶ。ラグビーというスポーツそのものの面白さ、RWCの雰囲気を楽しんでもらいたい。
一つ書いておきたいことがある。10月下旬、大阪のニュージーランドレストラン「マヌカ」で藪木宏之さんをゲストに迎えてのトークライブの司会をした。日本ラグビーフットボール協会の広報部長である藪木さんは神戸製鋼V7にすべて関わったスタンドオフだ。平尾誠二さんが、スクラムハーフだった藪木さんをスタンドオフにポジションチェンジさせたことが、V7の大きな要因になった。平尾さんの一番弟子ともいえる藪木さんは、「ノエビアスタジアム神戸(神戸市御崎公園球技場)は、平尾さんの思いが詰まっている」と話していた。傾斜の急なバックスタンドも、観客の見やすさを重視した平尾さんの意見が反映されているし、天井に据えられたカメラも平尾さんの発案だという。観戦者にラグビーの魅力を堪能してもらいたい。ラグビーを愛する平尾さんだからこその視点だ。
藪木さんの話を聞いて、ますます多くの皆さんにこのスタジアムでRWC2019を観戦してほしいと思った。RWC開催時、屋根は閉じられる。天候に左右されず、芝はハイブリッド。スクラムで芝がめくれ上がることもなく、スピードある選手が鋭角的なステップを使っても足元が滑ることはない。万全の環境で楽しめる4試合、ぜひ会場に足を運んでいただきたい。
ラグビーワールドカップ(RWC)日本大会の開幕は、2019年9月20日だ。今年の9月は日本全国で「あと一年」と銘打ったイベントが開催されている。2009年に日本での開催が決まったときは、10年は長いと感じたが、9年を経てみるとあっという間だった。
4年に一度のRWCはこの間に2度行われている。2011年のニュージーランド大会、2015年のイングランド大会である。2011年大会の日本代表はジョン・カーワンヘッドコーチの下、3敗1引き分け。プール戦で勝利をあげられずに姿を消した。そして、2015年大会は、エディー・ジョーンズヘッドコーチに率いられてプール戦で3勝1敗という史上最高の成績を残した。しかしながら、得失点差で決勝トーナメント進出を逃し、2019年の日本大会では初の決勝トーナメント進出をなんとしても成し遂げるべく強化を続けている。
8月29日、RWC2019へ向けた日本代表第二次トレーニングスコッド47名が発表された。RWCの日本代表候補選手たちだ。ここに、2015年のRWC後、日本代表から遠ざかっていた神戸製鋼の山下裕史が選ばれた。クボタスピアーズから移籍のLOグラント・ハッティングも選ばれている。神戸のラグビーファンの皆さんは盛り上がっていることだろう。
8月31日、16シーズン目となるジャパンラグビートップリーグが開幕した。神戸総合運動公園ユニバー記念競技場では、神戸製鋼コベルコスティーラーズがNTTコミュニケーションズシャイニングアークスを迎え撃った。白熱した戦いになり、神戸製鋼がアダム・アシュリークーパー、重一生らのトライで競り勝ち好スタートを切った。今季加入のヘイデン・パーカーは、2ペナルティーゴール、トライ後のゴールを4本、100%の確率で成功させ、世界最高レベルの正確無比なプレースキックを披露した。世界屈指の名将の一人であるウェイン・スミス総監督に率いられた新生・神戸製鋼は大いに期待できそうだ。RWC開催地の神戸のチームが観客を惹きつけるのは、何よりのRWCプロモーションになる。
開幕前、高島正之チェアマンは「これ以上大事なシーズンはない」と言い切った。トップリーグは日本代表の強化を目標に掲げて、2003年に発足した。国内の試合をレベルアップさせない限り、日本代表が世界に伍して戦うことはできない。2019年のRWCはその集大成であり、RWC前に行われる最後のトップリーグは史上最高レベルで日本代表を後押しなくてはいけないのだ。選手たちにとっては最終メンバー31名への生き残りをかけた最後のアピールの場でもあり、順位決定トーナメントの最終戦(ファイナル)が行われる12月15日まで目の離せない戦いが続く。
RWC2019は20チームが参加する。日本代表が入るプールAは、昨年5月の組分け発表時、アイルランド、スコットランド、日本代表以外の2チームが決まっていなかったが、ヨーロッパ代表はロシア、ヨーロッパ・オセアニアプレーオフ枠はサモアに決まった。これによって、神戸で開催される4試合のうち、3試合までの対戦が決まった。俄然注目度が高いのが、9月30日のスコットランド対サモアだ。
日本代表の順位に影響する一戦となることは間違いないだろう。2015年大会での両チームも日本代表と同じプールになり、36-33という接戦を繰り広げた。スコットランドがこの試合に勝ったため、決勝トーナメントに進んだが、もしサモアが勝っていれば、決勝トーナメントに進んだのは日本代表だった。
サモアの選手たちは世界中の有力クラブでプレーしており、RWCのはざまの年はクラブを優先するが、RWCではベストメンバーで戦う。プールAはアイルランドが実力的に頭ひとつ抜け出しており、スコットランド、日本が2位を争う、というのが大方の予想だ。しかし、サモアはここに割って入る力が十分にある。神戸の皆さんにぜひお勧めしたいカードだ。
さあ、あと一年である。9月19日からはチケットの「第一次一般抽選販売」が始まる。これまでは各チームのファンクラブ会員などが優先されたが、ここからは一般抽選販売。期間は11月12日(月)まで。そして、2019年1月19日からは、第二次一般販売(先着で購入)が始まる。まだまだチケットを購入するチャンスはあり、ぜひ多くの皆さんにラグビー界最大の祭典をライブで観戦していただきたい。
▼神戸市御崎公園球技場 開催試合
9月26日 イングランド 対 アメリカ
9月30日 スコットランド 対 サモア
10月3日 アイルランド 対 ロシア
10月8日 南アフリカ 対 敗者復活予選
8月31日の金曜日、16年目のジャパンラグビートップリーグが開幕する。日本ラグビーをけん引する同リーグには、今年も海外から多数のスター選手がやってくる。神戸の皆さんにとっても、これまで以上に楽しみなシーズンになるだろう。神戸製鋼コベルコスティーラーズの注目度がかつてなく高いからだ。
三連覇を狙う王者サントリーサンゴリアスは沢木敬介監督が「試合のスタンダードを上げ、日本ラグビーを引っ張りたい」と話す通り、理詰めの戦略を磨き、ハードトレーニングでチーム力を上げている。流大(ながれ・ゆたか)キャプテン他、松島幸太朗、真壁伸弥といった日本代表選手に加え、堀越康介(帝京大学)、梶村祐介(明治大学)など将来日本代表入りが嘱望されるルーキーも加わり、層の厚さで今シーズンも優勝候補の筆頭だ。
三連覇を狙う王者サントリーサンゴリアスは沢木敬介監督が「試合のスタンダードを上げ、日本ラグビーを引っ張りたい」と話す通り、理詰めの戦略を磨き、ハードトレーニングでチーム力を上げている。流大(ながれ・ゆたか)キャプテン他、松島幸太朗、真壁伸弥といった日本代表選手に加え、堀越康介(帝京大学)、梶村祐介(明治大学)など将来日本代表入りが嘱望されるルーキーも加わり、層の厚さで今シーズンも優勝候補の筆頭だ。
神戸製鋼がなぜこれほどまでに注目度が高いのか。前回のコラムでも触れたダン・カーターの加入は最大のトピック。世界最強のニュージーランド代表オールブラックスで112キャップを誇り、テストマッチ(国代表同士の試合)の個人得点「1598」は世界記録。パス、キック、ラン、タックルと、ラグビーのすべてのスキルに優れ、卓越した状況判断でチームを勝利に導いてきた。世界の年間最優秀選手を3度受賞(2005、2012、2015年)。おまけに、「超」のつくイケメンである。ラグビー史に深く名を刻むスーパースターが神戸にいる。それだけで、神戸の皆さんは世界中のスポーツファンの自慢できる。ぜひぜひ、自慢しまくっていただきたい。イニエスタだけではなく、神戸にはダン・カーターもいますよ、と。
神戸製鋼が注目されているのは、カーターの存在だけが理由ではない。即戦力の新加入選手のレベルが圧倒的に高いからだ。スーパーラグビーに日本から参戦するサンウルブズで大活躍した選手と言えば、身長2mながら驚くほど運動量の多いLOグラント・ハッティング、正確無比なプレースキッカー、ヘイデン・パーカーだ。ハッティングは2019年のラグビーワールドカップの日本代表入りの可能性が高く、要注目選手。パーカーは2018年のサンウルブズで50回のプレースキック機会中48回成功させた驚異の成功率を誇る。ニュージーランドからやってきたリチャード・バックマンは、スーパーラグビーのハリケーンズ、ハイランダーズ、日本のパナソニックでもプレー経験があり、バックスはどこでもできる万能選手。加えて、日本代表経験者も移籍してきた。HO有田隆平(コカ・コーラ)、SH日和佐篤(サントリー)、WTB児玉健太郎(パナソニック)である。いずれも即戦力であり、チーム力アップは間違いない。
チームを率いる総監督に就任したのは名将ウェイン・スミス(61歳)。ニュージーランドのカンタベリー地区出身で、現役時代はSOでニュージーランド代表17キャップ。1997年からスーパーラグビーのクルセイダーズでヘッドコーチを務め、98、99年優勝。その後はオールブラックスのアシスタントコーチとして2011年、15年のラグビーワールドカップ2連覇に貢献した。ニックネームは「プロフェッサー」。ラグビーについて深く考え、常に選手に問いかける。この春に就任すると、選手たちに改めて神戸製鋼所の歴史を学ばせた。価値観を共有し、意思統一されたチームを作ることに長ける。生まれ変わる神戸製鋼がどんなチームになるのか、想像すると胸が躍る。
神戸の皆さんには、ぜひラグビーを知らない知人、友人を誘ってスタジアムに足を運んでほしい。今シーズンの神戸製鋼はラグビーを知らない人にも何かを感じさせるチームになっているはずである。来年のラグビーワールドカップを楽しむためには、今年のトップリーグを観戦すべし。各国の代表選手もいるし、日本代表選手もプレーする。選手を知れば楽しみは倍増するからだ。
今シーズンは、16チームを2つのカンファレンスに分けて、それぞれ総当たり戦を行い、各カンファレンスの上位4チーム(計8チーム)と、下位4チーム(計8チーム)が別々の順位決定トーナメントに進む短期決戦だ。つまり、カンファレンス内で4位以上になり、1位~8位決定トーナメントに進まなければ優勝はできない。一戦たりとも気の抜けない戦いが続くということだ。
神戸製鋼の初戦は、8月31日、午後7時30分キックオフ。神戸総合運動公園ユニバー記念陸上競技場でNTTコミュニケーションズシャイニングアークスと戦う。翌週の9月8日は札幌の月寒ラグビー場で宗像サニックスブルース、9月14日は秩父宮ラグビー場でサントリーサンゴリアス、22日は大阪の万博記念球技場でトヨタ自動車ヴェルブリッツと、4週連続で試合が続く。この4連戦の結果で今シーズンの順位がほぼ決まると言ってもいい大切な戦いだ。まずは8月31日、歴史の証人となるため、スタジアムへ。
▼カンファレンス分け
◎ホワイトカンファレンス
キヤノンイーグルス、クボタスピアーズ、コカ・コーラレッドスパークス、東芝ブレイブルーパス、パナソニックワイルドナイツ、HondaHEAT、ヤマハ発動機ジュビロ、リコーブラックラムズ
◎レッドカンファレンス
NECグリーンロケッツ、NTTコミュニケーションズシャイニングアークス、神戸製鋼コベルコスティーラーズ、サントリーサンゴリアス、トヨタ自動車ヴェルブリッツ、豊田自動織機シャトルズ、日野レッドドルフィンズ、宗像サニックスブル
前回の本コラムではラグビーワールドカップ(RWC)のチケット抽選販売などに触れた。そして、6月16日(土曜)、神戸で行われる日本代表対イタリア代表・第2戦に向けて最後にこう締めくくった。「ここ数年、国内で同じ相手と連続で戦う時の日本代表は、2試合目に良いパフォーマンスをしている。2019年に向かって期待感の持てる試合をしてくれることを祈って、神戸の皆さん、ぜひスタジアムへ!」
言い訳がましいが、第1戦に負けることを想定して書いたわけではない(汗)。もし負けたとしても第2戦が盛り上がるように書いたつもりだったが、いまの日本代表にそんな心配は無用だった。日本代表は大分県で行われた第1戦でイタリア代表に、34-17というスコアで快勝した。内容も大分銀行ドームを埋めた25,824人を大いに沸かせるものだった。WTB福岡堅樹の爆発的なスピード、SO田村優の華麗なキックパス、次々につながる正確なパスに加え、スクラム、ラインアウトも安定。試合運びも、ディフェンスの背後にさまざまなキックを蹴り込んで相手を疲れさせ、後半に攻撃をテンポアップして仕留める理想的な展開だった。
イタリア代表は、世界ランキングこそ日本より下の14位だが、北半球最高峰の選手権シックスネーションズの一角であり、イングランド、アイルランドといった世界ランキングの上位国と毎年激闘を繰り広げる強豪国だ。世界のラグビー界での位置づけではイタリア代表が格上であり、過去の日本代表との対戦戦績も5勝1敗で大きく勝ち越していた。しかし、近年の日本ラグビーのレベルアップは著しい。世界最高峰のプロリーグ「スーパーラグビー」に2016年から参戦するサンウルブズは、日本代表とほぼ同じメンバーで、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカのトップ選手たちと戦い続けている。その経験がディフェンス時の素早い反応や、力強いコンタクトプレーに現れていた。
前回のコラム通りに行けば、第2戦はさらに素晴らしいプレーを見せてくれるはずだ。ノエビアスタジアムで観戦予定の皆さんの期待は否が応でも高まっているだろし、観戦予定ではなかった人々の足もスタジアムに向かうだろう。互いに相手の戦力や戦い方の材料を得た2戦目というのは、試合に対する準備がより緻密になり、その駆け引きも面白い。第1戦では上手くいった日本のキック戦術が同じように通じるのか、スクラム、ラインアウトは引き続き安定されられるのか。イタリア代表は必ずプレーの精度を上げてくる。彼らもシックスネーションズの一員だというプライドがある。そして、テストマッチ(国代表同士の試合)が2試合続くときは、2試合目をより重要視するのがラグビーの文化だ。緊張感ある試合になるのは間違いない。新装なったハイブリットの芝生(天然芝と人工芝が混ざったもの)も、両チームのパフォーマンスを高めるだろう。ぜひとも満員の観客席で日本代表の連勝を後押ししてほしい。
今回の試合は、神戸を愛し、RWC2019 の日本開催に尽力した平尾誠二さん(故人)を称え、その志を 2019 年とその先につなげるため「平尾誠二メモリアルマッチ」として開催される。スタジアム内では平尾さんの写真が展示されるほか、入場口にて来場者先着 25,000 名に「平尾誠二メモリアルマッチ特製クリアファイル」が配布される。神戸製鋼の名選手であり、日本代表キャプテン、日本代表監督としても活躍され、世界との距離を縮めるために力を注いだ平尾さんは、第1戦の勝利を喜んでいるだろう。天国の平尾さんが例の屈託のない笑顔になっているところを想像すると、勝利の喜びがさらに高まる。日本代表には第2戦でも平尾さんが「めちゃくちゃ強(つよ)なりよったな」と嫉妬するくらいの試合を見せてほしい。
神戸でプレーした選手には、平尾さんの他にも世界的に名を知られる選手が多い。オックスフォード大学でも活躍された林敏之さん、テストマッチのトライ数で世界記録を持つ大畑大介さん(国際ラグビー殿堂入り)。そして、今季より神戸製鋼に加入するダン・カーター(元オールブラックス)は世界最高のスーパースターだ。こうした選手が神戸でプレーしたことを、来年のRWCでは世界からやってくるラグビーファンにアピールしてほしい。思わず記念撮影をしたくなるような等身大の写真や、記念グッズの展示などあれば人気を博しそうだ。RWC2019の開幕まで、約450日。神戸だからこそできることは多い。そんなことを書いていたら気分が高揚してきた。我ながら、気が早すぎる。まずは、6月16日のイタリア代表戦に集中しよう。
2019年9月20日に開幕する第9回ラグビーワールドカップまで約550日となった。日本で開催されることが決まったのは、2009年のことだ。その頃は現実味がなかったのだが、一年半となった今、少し焦りにも似た気持ちがある。ラグビーファンの皆さんはどんな気持ちだろうか。チケットの抽選販売も始まり、筆者のところにも、喜び、落胆、両方の声が寄せられている。チケットはさまざまな形で売り出されており、国内唯一の公式旅行会社であるJTBからも観戦券付ツアーが販売されるなどしている。こまめにホームページなどで確認されることお勧めしたい。
そして、3月19日からは、開催都市住民先行抽選販売が始まる。対象になる開催都市とは、以下の19自治体だ。札幌市、岩手県、釜石市、埼玉県、熊谷市、東京都、神奈川県、横浜市、静岡県、愛知県、豊田市、大阪府、東大阪市、神戸市、福岡県、福岡市、熊本県、熊本市、大分県。もちろん、神戸市の皆さんも申し込むことができる。ただし、チケットの購入には、ID登録が必要になる(https://tickets.rugbyworldcup.com/)。
・申込期間:2018年3月19日(月)10:00~4月12日(木)23:59
・抽選結果発表:2018年4月26日(木)
・支払い期間:2018年4月26日(木)~2018年5月5日(土)
第9回のコラムでもご紹介したが、再度、神戸で行われる試合を記しておきたい。
9月26日(木)19:45 プールC イングランド対アメリカ
9月30日(月)19:15 プールA スコットランド対欧州オセアニアプレーオフ勝者
10月3日(木)19:15 プールA アイルランド対ヨーロッパ地区代表
10月8日(火)19:15 プールB 南アフリカ対敗者復活予選優勝チーム
神戸には元日本代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズ率いるイングランドはじめ強豪国がやってくる。しかも、現在行われているシックスネーションズ(欧州6カ国選手権)では、優勝候補筆頭のイングランドをスコットランドが25-13で倒し、翌週にもフランスがイングランドに勝利する波乱が起こっている。そしてアイルランドは、イングランドに勝ったスコットランドに28-8で快勝した。2019年に向かって各国の強化は急ピッチ。勢力図は刻一刻と変化している。ニュージーランドと同プールの南アフリカも含め、神戸でプレーする国々は優勝に争いに絡むチームばかりだ。
ラグビー選手の「旬」は短く、トップ選手でいられるのは数年間だ。ラグビー界最高峰のチャンピオンシップであるRWCは、4年に一度しか行われない。伝説的な選手でもRWCに縁がないこともある。まさに「一生に一度」の舞台にピークを合わせることができた選手たちが、全身全霊をかけて戦うのだ。神戸にやってくるチームの選手たちもそれは同じ。その激闘をぜひスタジアムで見てもらいたい。
2019年に向かって日本代表の強化も気になるところだが、多くの日本代表選手が参加するサンウルブズは、3年目のスーパーラグビーで苦しい戦いを続けている。2月24日の初戦こそ、オーストラリアの強豪ブランビーズに1トライ差の惜敗と健闘したが、続くレベルズ(オーストラリア)、シャークス(南アフリカ)には完敗。新加入の選手が多く、特にディフェンスのコンビネーションがとれていないのが敗因だが、違う角度から見れば、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカという南半球の三強国の代表選手が揃うチームと戦うからこそ、通用する選手、戦略戦術が明確になる。タフな戦いの中で課題を修正し、RWC2019で勝てるチームを作ってもらいたい。
日本代表は6月、イタリア代表と2試合、ジョージア代表と1試合を行うが、イタリアとの第2テストマッチが、6月16日(土)、神戸のノエビアスタジアムで行われる。日本ラグビー協会が公式に認めるテストマッチ(国代表同士の試合)がノエビアスタジアムで開催されるのは今回が初めてのこと。
当日、スタジアム周辺では開催都市PRブースやラグビー体験、ステージイベントなどが楽しめる「(仮称)神戸ラグビー・ファンゾーン」が開催される。イタリアは現在(2018年3月12日)、世界ランキング14位(日本は11位)だが、シックスネーションズに参加して、イングランドやアイルランドと毎年死闘を繰り広げており、日本代表よりトップレベルの試合経験は豊富だ。このチームと戦うことが、RWC2019で決勝トーナメントに進出するための試金石になる。
ここ数年、国内で同じ相手と連続で戦う時の日本代表は、2試合目に良いパフォーマンスをしている。2019年に向かって期待感の持てる試合をしてくれることを祈って、神戸の皆さん、ぜひスタジアムへ!
日本代表戦のチケット概要は以下のサイトより。
https://www.rugby-japan.jp/2018/03/14/2018_june_testmatch_ticket_info/
高校ラグビーの熱さは心に響く。年末年始、改めて実感した。2017年12月27日から2018年1月8日、全国高等学校ラグビーフットボール大会は、今年も東大阪市花園ラグビー場にて開催された。「今年も」と書いたのは、花園ラグビー場が2019年ラグビーワールドカップ(RWC)の試合開催スタジアムであり、改修中であるからだ。椅子席はベンチシートだったところも個々に独立した背もたれ付きに変わっていた。すべてはRWCの規定に合わせるためだ。電光掲示板など仮設の部分も多いが、RWCで使用されるスタジアムを改修途中で見られるという貴重な機会でもあった。
改修中でも開催に踏み切ったのは、全国の高校生の憧れの地「花園」を守るためだ。スタジアムは工事中でも、芝生のコンディションは素晴らしかった。例年通りだが、選手に最高のパフォーマンスができる環境を与えたいという愛情を感じる。ラグビーはピッチコンディションによってパフォーマンスが大きく変わるし、それが原因で怪我が出ることもある。ここを重視することが大会の成功につながるのだ。開催地、キャンプ地ともにピッチコンディションには最大限の気遣いが必要だろう。
さて、今大会も熱戦が相次いだが、1月8日の決勝戦は東海大仰星と大阪桐蔭という大阪勢対決となり、一進一退の攻防の末、東海大仰星が2年ぶり5度目の優勝を飾った。感動的な優勝だったが、今大会で話題をさらったチームのひとつに報徳学園高校(兵庫県代表)があった。51の参加チーム中、2回戦から登場する「シード校」は13チーム。春からの戦績によって選ばれるのだが、報徳学園は3月の近畿大会2回戦で京都成章に敗れ、4月の全国選抜大会にも出場しておらず、ノーシードだった。それでも、1回戦を突破すると、2回戦で御所実業(奈良県)を、3回戦でも中部大春日丘(愛知県)というシード校2チームを破ってのベスト8進出。スピーディーな攻守で観客席を沸かせた。
快進撃を支えたのは兵庫県の分厚い選手層だ。主力選手たちのキャリアを見ると、県内のラグビースクール出身者が多い。芦屋、西神戸、伊丹、西宮甲東、尼崎、高砂、姫路、川西市、三田、兵庫県、明石、神戸中央といったスクールである。現在、兵庫県内には21のラグビースクールが存在する。
これは大阪府の30、福岡県、東京都の25に次ぐ多さだ。近年、兵庫県はラグビーの人材輩出県として知られている。全国大学選手権で準優勝した明治大学の先発メンバーにも、CTB梶村祐介(副将)、FL前田剛(4年)、井上遼(3年)、WTB山村知也(1年)という4名の報徳学園出身者がいた。
梶村、前田、山村は伊丹ラグビースクール、井上は芦屋ラグビースクール出身だ。
このほか多くの大学、トップリーグのチームで兵庫県出身者が活躍している。スクールの指導員はほとんどがボランティアで、ラグビーを愛するがゆえに休日返上で指導にあたっている。神戸市と淡路市が、RWC2019の公認キャンプ地に立候補する兵庫県はラグビー熱が高い。今後も優秀な選手が出てくるだろう。報徳学園の快進撃を目の当たりにしてそれを再確認した。
神戸では、1870年代からラグビーが行われていたという。そして、日本ラグビーの父とも言われるE・Bクラーク氏は「神戸市立外国人墓地」に眠っている。このあたりは、本ホームページの「神戸のラグビー」に詳しいが、140年以上のラグビー史を刻んできた場所から近年、次々に優秀な選手が生まれている。そして、RWC2019が開催される。歴史の必然という気がしてならない。
そして、いよいよRWC2019のチケットの販売が始まる。まずは、セット券(チームパック、スタジアムパック)からの販売だ。2018年1月19日から1月26日には、ラグビーファミリー(現役選手、スタッフ、コーチ、JRFUメンバーズクラブ会員など)の先行抽選販売を開始。1月27日から2月12日にかけて、一般の抽選販売がある。チケット購入にはID登録が必要(tickets.rugbyworldcup.com)。このあたりは、公式チケットサイトでご確認いただきたい。
兵庫県の皆さんにおススメなのは、神戸市御崎公園球技場のスタジアムパック(同一会場のすべてのプール戦が観戦できるチケット)と、日本代表のチームパック(一つのチームすべてのプール戦を観戦できるチケット)を購入すること。日本代表の試合は全国各地で行われるので交通費が必要になるが、神戸開催試合と日本代表戦は日程がずれており、計8試合の観戦が楽しめる。また、開催都市住民は通常チケットについて一般よりも6カ月早く申し込める特典がある(2018年3月19日~4月12日)。これを利用して神戸開催試合の中でどうしても見たいチケットだけを確保する手もある。どんなスケジュールで観戦するか、どの試合のチケットを購入するか、そんな準備も含めてRWC2019を楽しんでいただければと思う。
ラグビーワールドカップ(RWC)2019の試合日程(会場)が発表になった。2019年9月20日、東京スタジアム(味の素スタジアム)で開催される開幕戦は、日本代表対ヨーロッパ地区代表(ルーマニアが濃厚)に決まった。どの試合を見に行こうか、チケット購入に頭を悩ませている人が多いだろう。神戸(神戸市御崎公園球技場=ノエビアスタジアム)で開催されるのは、以下のカードになった。
9月26日(木)19:45 プールC イングランド対アメリカ
9月30日(月)19:15 プールA スコットランド対欧州オセアニアプレーオフ勝者
10月3日(木)19:15 プールA アイルランド対ヨーロッパ地区代表
10月8日(火)19:15 プールB 南アフリカ対敗者復活予選優勝チーム
プレーオフ勝者はサモアが濃厚で、敗者復活予選はウルグアイ、ロシア、スペインあたり。特筆すべきは、北半球最高峰の国代表選手権「シックスネーションズ」に所属するイングランド、スコットランド、アイルランド、RWCで2度の優勝を誇る南アフリカがやってくることだ。ラグビー界では世界ランキングとは別に伝統的強豪国を「ティア1」と呼ぶ。「シックスネーションズ(上記の3チーム他、ウェールズ、フランス、イタリア)」と、南半球の最高峰の選手権「ザ・ラグビーチャンピオンシップ」に参加するニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチンのことだ。日本など2番手グループは「ティア2」と称される。
10月末現在の世界ランキングで見ても、イングランド(2位)、アイルランド(4位)、南アフリカ(5位)、スコットランド(6位)と上位がずらり。対戦相手はティア2だが、サッカーで言えば、ブラジル、ポルトガル、アルゼンチンといった強豪国が一挙にやって来るようなもの。しかも、イングランドは前日本代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズが率い、スコットランドとアイルランドは日本と同じプールAに所属。そして、南アフリカのアリスター・クッツェーヘッドコーチは神戸製鋼コベルコスティーラーズの元ヘッドコーチだ。それぞれに注目に値するチームばかりである。
イングランドはラグビー発祥国でもあり、これを機会にラグビーの歴史を学び、なぜイギリス代表ではなく、イングランド、スコットランド、アイルランドなのかなど背景を理解すれば、より深くそれぞれの試合を楽しめるだろう。試合前の国歌斉唱ひとつとっても、その意味は深い。アイルランドは、アイルランド共和国と、イギリスの一部である北アイルランドの選手がひとつのチームを作っている。理由は「国が分かれる前に、アイルランドラグビー協会があったから」だ。このため、国歌斉唱ではどちらの国の選手も声を出せるように、ラグビーのために作られた「アイルランド・コール」という曲を歌う。スコットランドは事実上の国歌である「フラワー・オブ・スコットランド」、イングランドはイギリス国歌である「ゴッド・セイブ・ザ・クイーン」だ。
南アフリカは、アフリカーナ(オランダ系移民の子孫)政権時代に国歌となった「ディー・ステム(叫び)」と、黒人の国歌「ヌコシ・シケリ・アフリカ(神よ、アフリカの祝福を)」をひとつにした国歌を歌う。途中でまったく違う曲調になるように感じるのはそのためだ。1991年にアパルトヘイト(人種隔離政策)が撤廃され、その後大統領に就任したネルソン・マンデラが民族和解のために制定した国歌だと言われる。南アフリカのことを調べれば、人種差別についても学ぶことができる。子供達にもそんな歴史を身近に感じてほしい。南アフリカのラグビーについて学ぶなら、映画「インビクタス」(クリント・イーストウッド監督)がお勧め。
日程発表に先立ち、RWC2019の新しいキャッチコピーが発表された。「4年に一度じゃない。一生に一度だ。ONCE IN A LIFETIME」。二度と日本に来ない、という意味ではない。ラグビー伝統国以外、そしてアジアでの初開催という事で「初めて」の経験は「一生に一度」という意味が含まれている。初の日本開催は、神戸の皆さんにとっても一生に一度の機会。これを機に人生が変わるような体験をしてほしい。それは前向きに自ら動き始めなければ実現しない。さあ、動き始めよう。自分自身にとって「ラグビーワールドカップ日本大会は大成功だった」と笑顔で言えるように。
ラグビーワールドカップ2019開幕まで、あと2年である。当初、日程発表は開幕戦の丸2年前となる、2017年9月20日に行われる予定だったが、その後の調整で決勝戦が行われる11月2日での発表が決まった。どの会場でどんなカードが行われるのか、待ちきれない思いでいる人が多いだろう。日程が明らかになれば観戦スケジュールも組むことができるし、具体的にイメージが沸く。そこからはあっという間に2年が過ぎるだろう。
11月2日までの間にも、開催都市や公認キャンプ地に立候補している自治体がさまざまなイベントを行うほか、「ラグビーワールドカップ2019 2YEARS TO GO FESTIVAL」が、9月20日~11月4日の46日間にわたって開催される。9月20日、東京の渋谷を皮切りに、優勝トロフィーの「ウェブ・エリス・カップ」が全国で一般公開されるのだ。神戸にやってくるのは、10月22日(日)、神戸市御崎公園球技場(ノエビアスタジアム)だ。この日は、NTTドコモレッドハリケーンズ対キヤノンイーグルス、神戸製鋼コベルコスティーラーズ対リコーブラックラムズの試合が行われる。
地元チームを応援しながら、エリスカップを眺め、2019年の11月2日に横浜スタジアム(日産スタジアム)でカップを掲げるチーム、キャプテンはどこなのか、想像を巡らせたい。日本代表が優勝争いに絡めば、大いに盛り上がる。そんなことを考えていたら、きっと心臓がドキドキし始めるだろう。2017年9月11日現在の世界ランキングは、1位ニュージーランド、2位イングランド、3位南アフリカ、4位アイルランド、5位オーストラリア、6位スコットランド、7位ウェールズ、8位フランス。日本は11位。大方の予想では、ニュージーランドとイングランドの決勝戦になるのではないかと言われているが、果たして。この中から2019年にピークを迎えるチームはどこなのか。そんなふうに予想してみたい。
開催都市の一つである神戸も、大会に向けての周知活動を加速させなければならない。世界の三大スポーツ大会のひとつを地元で見られる機会は、人生の中で一度、あるか、ないかだ。楽しまなければもったいない。もちろん、神戸市ではすでにさまざまな盛り上げイベントが行われている。7月、三宮のスポーツバー「スポルテリア」で神戸製鋼コベルコスティーラーズの木津武士選手と渡邉隆之選手のトークライブがあり、司会をさせてもらったのだが、その時、今春、東海大を卒業したばかりの渡邉選手が、「神戸に来てみたら、いろんな場所にラグビーのポスターが貼ってあって驚きました」と話していた。東京や他の地域では感じられなかった盛り上がりがあるという。
今季のジャパンラグビートップリーグは、8月18日に開幕したが、26日、神戸総合運動公園ユニバー記念競技場では、神戸製鋼コベルコスティーラーズ対宗像サニックスブルースの試合が行われた。この試合前後にもイベントが行われた。試合前は、RWC2019のアンバサダーを務める増保輝則さん、お笑い芸人のミサイルマンがトークライブをし、試合後は西神オリエンタルホテルにて、アフターマッチトークライブを開催。神戸製鋼の山下裕史、沢居寛也、田中大治郎、重一生の4選手が参加して爆笑トークを繰り広げた。
トーク後の懇親会は、神戸市の玉田敏郎副市長のあいさつに始まり、ファンの皆さんと選手が交流した。なぜ、こうしたイベントが企画されたかといえば、試合前後も大いに楽しむのがラグビー文化だからだ。それを、神戸の皆さんにも知ってほしいという思いだ。
2015年、イングランドを軸に行われたRWCでも、そんな光景を各地で見ることができた。日本代表が南アフリカ代表を破った試合は夜に行われたが、開催地のブライトンは昼間からラグビージャージーを着た人が街を練り歩き、海岸でランチを楽しんでいた。試合前後に世界の人々の交流し、友達になり、試合後は勝っても負けても相手の健闘を称え、ああでもない、こうでもないと、試合について語る。そうして、世界の人々とつながって行く。絆を深めるのは選手だけではない。ファンも同じなのである。敵対せず、違いを認め、共に歩む。それがラグビー文化だと思う。国際都市である神戸だからこそ、そんな文化をいち早く根付かせ、他の開催都市の手本になってほしいと願っている。
6月10日、熊本えがお健康スタジアム。陸上トラックの上まで天然芝が
早いもので、日本で開催されるラグビーワールドカップ2019の開幕まで800日を切った。その足音が少しずつ大きくなり、各開催都市の関係者の皆さんの緊張感が高まっていることだろう。この夏、公認チームキャンプ地候補地が決まり、秋には2019年の大会日程発表、そして各チームのキャンプ地視察が始まる。そして、全世界のラグビーファンが、2019年にどんなスケジュールで日本を旅し、試合を観戦するか、胸を躍らせながら計画することになるわけだ。
すでに出場権を獲得している日本代表は、6月、来日したルーマニア、アイルランド(2試合)と戦い、1勝2敗。2019年大会の一次リーグで同プールになるアイルランドには連敗し、現在世界ランキング3位の実力を見せつけられた。日本代表の置かれた立場が変わったことを痛感させられたのが、第1戦に勝利した直後、アイルランド代表ジョン・シュミットヘッドコーチが発した言葉だ。「来日前に日本代表のたくさんの試合を見ました。また、ハイランダーズの試合も見てきました。ジェイミー・ジョセフ日本代表ヘッドコーチ、トニー・ブラウンコーチが指導していたチームであり、彼らのやろうとしているプレー、パターン、コーチングの傾向などが分かるからです」。
かつて、これほどまでに分析されて戦った日本代表はなかった。RWC2015での南アフリカ代表戦勝利、その後の2勝、2016年秋の欧州遠征でのウェールズ代表との接戦により、日本代表は強豪国からも詳細に分析されるチームになった。嬉しいことだが、強豪国に勝つことが極めて難しくなったとも言える。そんな状況でRWC決勝トーナメント進出を目指すのだから、地力をつけるしか道はない。現在の日本代表はジョセフ、ブラウンの目指す戦術・戦略の理解度を高めることに多くの時間を割いている。前体制のエディー・ジョーンズヘッドコーチは、体作りを優先し、戦法はシンプルに、ひたすら反復練習を繰り返した。個々の判断を限定し、ジョーンズHCのイメージを体に染み込ませるスタイルだ。
一方で、ジョセフHCは、個々の判断を重視する。準備されたプラン、個々の役割に沿って、チーム全員が的確な判断を下して連動するようになれば、前体制よりもチーム力が格段に上がる可能性があるからだ。しかし、あと2年でそれができるのか、強豪国と戦う時に最低限必要なフィジカル強化はどうするのか、多くの不安が渦巻いている。幸い選手達の意識は高い。RWC2015の日本代表キャプテン、リーチ マイケルは、この春もニュージーランドでプレーしていたが、「これからは、すべてにおいて日本代表を最優先する」と日本にいることを決めてくれた。頼もしい男だ。「一人一人がスタンダードを上げなくてはいけない」。リーチに続いて、たくさんの選手から潔く、頼もしいコメントが聞きたい。いまは我慢の時なのかもしれないが、この秋には、世界選抜、オーストラリア、フランスといった強豪との対戦が予定されている。完敗ばかりではファンの関心は薄れる。世界を驚かせる試合が、そろそろ見たい。それが開催都市の皆さんの活動を後押しすることになるのだから。
6月の日本代表戦は、すべてRWC2019の開催スタジアムで行われたことでも注目を集めた。6月10日、ルーマニア代表戦(熊本えがお健康スタジアム)、6月17日、アイルラン代表第一戦(静岡エコパスタジアム)、6月24日、アイルランド代表第二戦(東京・味の素スタジアム=2019年は東京スタジアムとして使用)。どの会場もRWC2019の試合開催時の予行演習として運営し、開催都市やトップリーグ関係者が多数視察に訪れていた。今回の3会場は、いずれも陸上競技の400mトラックがあった。ここで問題になるのは、トライをするエリア(インゴール)と、タッチライン(サイドライン)の外側に十分な芝生のスペースがなく、危険だということ。競技規則では、原則としてインゴールは最低6m、タッチラインの外側も少なくとも5mと定めている。熊本はタッチラインの外側、陸上トラックの第2レーンまで天然芝で覆った。静岡、東京は天然芝で足りない部分は人工芝を使用。写真の通り、エコパスタジアムのインゴールの天然芝と人工芝には段差があるが、2年をかけて天然芝に砂を足して徐々に高くし、フラットにするという。
観客数は、18,585人、27,381人、29,354人。満員ではなかったが、日本代表のレプリカジャージを着ているファンは確実に増えている。日本代表をサポートし、日本代表ジャージを着て歩くことが誇らしくなっている証だろう。熊本では、くまモンも赤白のジャージを着ていた。筆者は試合を放送したJSPORTSでピッチサイドコメンテーターを務めたが、日本代表のトライに対する大歓声は腹にずしりと響いた。2019年に満員になったスタジアムでの歓声を想像すると気持ちが昂ぶる。
神戸市の御崎公園球技場でも試合の開催が決まっている。陸上トラックもなく、コンパクトな作りだけに歓声の反響はすさまじいものだろう。過去のRWCを現地で見てきた印象だが、海外のラグビーファンの声援の大きさは日本人の何倍にも感じる。特にアイルランドのサポーターの声援のボリュームは驚くばかり。ラグビーは太鼓親や笛などの鳴り物は禁止だが、熱を帯びた声だけで十分に感動を呼ぶ。
ふと思った。この場所でRWCが開催されるのだということを意識づける企画が頻繁にできないか。最寄り駅、あるいは三宮など大きな駅からスタジアムに向かう道を歩き、世界三大スポーツイベント、4年に一度の真剣勝負を見られるのだと気分が高揚するイベントができないか。世界のラグビー史に刻まれることになる場所が目の前にある。そのスタジアムを見つめる視線が多くなればなるほど場所の価値は高まる。兵庫県、神戸市の皆さんを中心に、これから2年、RWCをたっぷり楽しんでほしいと願うばかりだ。
5月10日(金)、ラグビーワールドカップ(RWC)2019のプール分け抽選会が、京都迎賓館で行われた。すでに出場の決まっている12チーム、世界各地域での代表枠など計20の出場チームが4つのプール(組)に振り分けられた(別表の通り)。日本代表は、世界ランキング4位のアイルランド、5位のスコットランドとともにプールAに決まった。各プールの5チーム中2位までが決勝トーナメントに進出できる。現在、世界ランキング11位の日本代表としては、悲願の決勝トーナメント進出に向け、2019年までにアイルランド、スコットランドを倒す実力を身に着けなければいけないということだ。
大会連覇中のニュージーランド、世界ランキング2位のイングランドと同じプールに入らなかったことで、ラッキーな組分けと見る向きもあるが、アイルランドは昨年ニュージーランド、今年に入ってイングランドを倒しており、スコットランドにも日本代表はRWCで勝ったことがない。2015年同様、細部に気を配った慎重な準備が求められる。2015年大会では多くの選手が「南アフリカ戦が、一番コンディションが良かった」と語っていた。ここはコーチ陣の手腕が問われるが、日本ラグビー界をあげて選手のコンディションを万全にもっていくサポートが必要だろう。プールAの他2チームのうち、「ヨーロッパ地域1」は、ルーマニアになる可能性が高く、「ヨーロッパ・オセアニア地域プレーオフ勝者」は、ドイツ、ロシア、サモア、トンガあたり。6月に来日するルーマニア、アイルランドの日本代表戦が俄然注目を集めることになった。ぜひとも、多くの皆さんにRWC2019を想像しながら観戦を楽しんでもらいたいと思う。
抽選会の前夜、京都市内のホテルで歓迎レセプションがあった。ワールドラグビーのビル・ボーモント会長のスピーチが印象に残った。「我々は日本でRWCを開催することを決めました。一つの国の熱意に火をともしたかったからです。それがアジアにラグビーが広がるきっかけにもなるでしょう。そして、この抽選会がトーナメントに命を吹き込む瞬間なのです」。身の引き締まる思いがした。ラグビーの未来にとって、日本大会が果たすべき役割はとてつもなく重い。もし、ワールドラグビーが後悔するような運営しかできなかったら、ラグビーの世界的発展は停滞することになる。
プレッシャーになっては申し訳ないのだが、開催都市の皆さんも、ラグビーというスポーツの未来を担う仕事に誇りを感じて、大会成功に尽力していただければ嬉しい。5月10日の抽選会を前に、ラグビーワールドカップ2019のアンバサダーを務める増保輝則さん、大畑大介さんに話を聞く機会があった。2人とも、神戸製鋼コベルコスティーラーズで活躍された元日本代表の名選手だ。思い出深いスタジアムについて問いかけると、「神戸のウイングスタジアム」(現ノエビアスタジアム)という言葉が返ってきた。増保さんにとっては、2003年度、トップリーグ発足の年にチャンピオンフラッグを掲げた思い出のスタジアム。大畑さんにとっては、「体はボロボロでしたが、壊れてもいいと思ってプレーしました」と、多くの人に見守られて現役最後の魂を燃やしたスタジアムだ(2011年)。
個人的な思い出だが、大学時代、ウイングスタジアムに改築される前の神戸市立中央球技場で試合をしたことがある(1986年)。関西大学Aリーグで、我が大阪体育大学は同志社大学に終了間際の逆転負けを喫した。決勝トライに向かって疾走する山川載人選手の後姿を忘れることはできない。私のタックルは僅かに届かず、芝に突っ伏して見送るしかなかった。ほろ苦い思い出である。あの場所にはたくさん人々の思い出が詰まっている。増保さんと大畑さんの話を聞きながら、当たり前のことを再認識した。そんなスタジアムでRWC2019の試合が行われることの意味、歴史的な価値に思いを至らせることが、多くの人々の琴線に触れるのではないか。そんな気がしている。
<ラグビーワールドカップ2019 組分け>
【プールA】
アイルランド、スコットランド、日本、ヨーロッパ地域1、ヨーロッパ・オセアニア地域プレーオフ勝者
【プールB】
ニュージーランド、南アフリカ、イタリア、アフリカ地域1、敗者復活予選優勝チーム
【プールC】
イングランド、フランス、アルゼンチン、アメリカ地域1、オセアニア地域2
【プールD】
オーストラリア、ウェールズ、ジョージア、オセアニア地域1、アメリカ地域2
RWC2019開幕まで、まもなく900日になろうとしている。2016年12月24日に行われた1000日前イベントから月日の経過が加速しているように感じるほどだ。そして、2017年5月10日、京都迎賓館にてRWC2019のプール組分け抽選会が行われる。いよいよ2019年で日本代表が戦う相手が決まるわけだ。RWC2015の抽選会は2012年12月に行われた。このときから、当時日本代表のヘッドコーチだったエディー・ジョーンズは南アフリカ戦勝利のシナリオを描き始めた。2019年に向かって、5月10日は、とてつもなく重要な日なのである。
RWC本大会の一次リーグは、参加20カ国を4つのプールに分け、それぞれ総当たり戦を行う。各プール2位までが決勝トーナメントに進むシステムだ。5月10日は、そのプール組分け抽選会である。実は、RWCの抽選会が、世界ラグビーの統括団体であるワールドラグビー(旧IRB)の本拠地であるアイルランド共和国、イギリス以外の場所で行われるのは史上初のことだ。RWCにとっても歴史的な日となる。
抽選会のやり方を説明しておこう。現在、2019年の出場を決めているのは2015年大会の各プール3位までの12チーム。日本代表も入っている。まずは、この12チームを抽選時の世界ランキングによって、3つの「バンド」に分ける。バンド1(1位~4位)、バンド2(5位~8位)、バンド3(9位~12位)。それぞれのバンドごとに抽選をして、プールを決める。残る8チームは、ヨーロッパ、アジア、アメリカなど世界各地の予選を勝ち抜いて出てくる地域枠をバンド4、バンド5に分け、抽選で振り分けて行く。日本代表の世界ランキングは現在(3月8日現在)11位なので、バンド3に入ることになる。
現在の世界ランキングは、1位:ニュージーランド、2位:イングランド、3位:オーストラリア、4位:アイルランド、5位:スコットランド、6位:南アフリカ、7位:ウェールズ、8位:フランス、9位:アルゼンチン、10位:フィジー。もし、このままの順位で5月まで行けば、日本のプールに「ニュージーランド、南アフリカ」が入る可能性もあるし、「イングランド、フランス」、「オーストラリア、ウェールズ」、あるいは、「アイルランド、スコットランド」など、いろんな可能性が考えられる。5月10日は、全世界のラグビー関係者、ファンの視線が京都迎賓館に注がれ、その日から2019年大会を展望する議論が白熱するわけだ(対戦カード、日程が決まるのは2017年秋以降)。
開催都市の皆さんは、2019年に向かっての機運を盛り上げる絶好の機会を逃すべきではない。もっともっと多くの人に知ってもらい、注目を集めてほしい。
日本代表の強化もターゲットが明確になり、加速する。その強化の重要な場である世界最高峰のプロリーグ・スーパーラグビーが例年通り、2月下旬に開幕した。参戦2年目となる日本チーム「サンウルブズ」は、日本代表との連携を密にし、原則としてRWC2019の日本代表になる選手を選出している。しかし、開幕戦のハリケーンズに17-83という大敗を喫し、第2戦のキングズ(南アフリカ)にも内容的に互角以上の戦いをしながら敗れた。スーパーラグビーの経験の浅いメンバーが多いのは要因の一つ。昨年のトゥシ・ピシ(サモア代表SO)、アンドリュー・デュルタロ(アメリカ代表FL)のような各国代表クラスの選手は入っておらず、日本が誇るFW第三列リーチ マイケル(チーフス)、ツイ・ヘンドリック(レッズ)、アマナキ・レレイ・マフィ(レベルズ)は、それぞれスーパーラグビーの他チームでプレーしている。サンウルブズに加入していても、大野均、真壁伸弥、立川理道、松島幸太朗らRWC2015組の選手が怪我で欠場中。苦戦が続いている。
本来であれば、リーチやツイが海外のプロクラブでプレー経験を積んでさらにレベルアップし、サンウルブズで多くの若手がスーパーラグビーを経験することは歓迎すべきことなのだが、スーパーラグビーはプロの興行でもある。今のところホーム秩父宮ラグビー場の平均観客数が、1万7000人を超える人気のサンウルブズも、負けてばかりではファンが離れる。国内シーズンの怪我や疲れを抱える選手を休ませながら、結果も求められるという難局に、サンウルブズは立ち向かっているわけだ。コーチ陣や選手は日本ラグビーの未来を背負っているという自負を持って戦っているが、もっと貪欲に勝利を追い求めてもらいたい。その戦いが感動的であれば、ファンは必ず応援を続けてくれるはずだから。
サンウルブズでプレーする選手は、4、5月、韓国、香港と戦うアジアラグビーチャンピオンシップ、6月のルーマニア戦、アイルランド戦(2試合)の日本代表の軸になる。観戦するファンの皆さんは、この中から誰が日本代表入りするのか予想するという視点でも、サンウルブズの試合を楽しんでもらいたいと思う。
そして、繰り返すが、5月10日、京都迎賓館での抽選会に熱い視線を注いでほしい。いったいどんな組分けになるのか、胸躍る瞬間を世界のラグビーファンの皆さんと共有してもらいたい。
2017年1月、日本ラグビーは高校、大学、トップリーグほか、さまざまな日本一が決まった。それぞれに感動的な試合があり、ラグビーの魅力を再確認させてくれるものばかりだった。年末年始、東大阪市の花園ラグビー場で開催された全国高校大会では、東福岡高校が春の選抜大会、夏の7人制大会に続いて三冠を達成し、2大会ぶり6度目の頂点に立った。春から「超高校級」と評価が高く、「大学選手権に出ても上位に食い込むのでは?」という声もあったほど。しかし、準々決勝からは苦戦の連続だった。
準々決勝の京都成章戦では、一時12点のリードを奪われながら逆転勝利。準決勝の御所実業戦でも前半19-8とリードされながら後半に逆転し、25-24と1点差で切り抜けた。そして、決勝戦は東海大仰星との死闘を28-21という1トライ1ゴール差で制した。窮地を何度も切り抜けたタフな精神力には恐れ入ったが、藤田雄一郎監督は「彼らが一生懸命練習し、キャプテンを信じてやってきた結果です」と、仲間同士の信頼感と怠らなかった努力を称えた。188㎝、105㎏の箸本龍雅(はしもと・りゅうが)キャプテン他、超高校級の才能ばかりが注目されたが、地道な体作りは特筆すべきもの。最新のトレーニング理論を取り入れ、栄養、休息、トレーニングをバランスよく行ってきたからこそ、試合を重ねながら体が大きくなった。僅差勝負をものにしたのは、ラグビーというゲームの構造を理解し、常に選手自身が考えながらプレーしていたからこそだ。
全国大学選手権8連覇を達成した帝京大学も、準決勝の天理大学戦、決勝の東海大学戦と、決して楽な内容ではなかった。スクラムで劣勢になる場面もあった。それでも、相手のディフェンスの分厚い部分を避け、空いたスペースにボールを動かすことで効率よくトライを奪った。準決勝で敗れた天理大学の小松節夫監督は「ゲームの運び方に差があった」と王者の臨機応変なプレーぶりを評価した。トップリーグを制したサントリーサンゴリアスも、選手のゲーム理解の深さが白星街道の要因だった。昨春には世界最強のニュージーランド代表の試合を選手自身が徹底的に分析し、その強さの秘密を探ったりもした。15戦全勝のなかで、6度マン・オブ・ザ・マッチ(最優秀選手)を受賞した小野晃征は「みんなでゲーム分析をしたからこそ、同じ絵が見られるようになった」と言っていた。試合途中でゲームプランを変更しても、リーダーのコールで全員が変更されたプランをイメージできるという意味だ。
東福岡、帝京、サントリーに共通するのは、ゲーム理解の深さであり、体作りも含めた周到な準備だった。優勝チームの選手達は、勝因について一様に「一戦一戦、いい準備ができたからです」と話した。ふと、ラグビーワールドカップ2019のことを思った。この大会を成功させるためにも周到な準備が必要だし、大会に関わるすべての人が、ラグビーへの理解、RWC2019への理解を深め、共有しなければいけないということだろう。
神戸市は、RWC2019の試合を開催する都市の一つであり、2017年1月11日に発表された「公認チームキャンプ地選定プロセス」へも応募した。公認チームキャンプ地とは、RWC2019の参加チームが大会期間中に滞在するところだ。RWC2019組織委員会に公認された上で各チームに選ばれことが必要で、ハードルは高い。しかし、もし選ばれればチームは長期滞在する可能性が高く、海外からのラグビーファンも神戸市に滞在することになる。経済効果も大いに期待できるだろう。世界のチームから選ばれるために何が必要なのかを関係者が理解していなければいけない。もちろん、開催都市、キャンプ地として世界のラグビーファンをおもてなしするためにも周到な準備が欠かせない。
大阪体育大学ラグビー部時代の恩師・坂田好弘先生に、コーチングの真理を表現した言葉を教えてもらったことがある。
Tell me and I forget.
Show me and I remember.
Involve me and I understand.
「言葉だけでは忘れてしまう、見せてもらえば記憶に残る、一緒にやらせてもらうと理解する」。多くの関係者、市民がラグビーに触れる機会を作ることが理解を深めることにつながるのだろう。皆さん、一度でいいから、楕円球を抱えて走ってみませんか。
11月の日本代表戦は、1勝3敗という戦績で終わった。負け越しは残念だが、その内容は、短期間の準備期間の中では新しい日本代表の方向性を示し、多くのラグビーファンに期待感を持たせるものだった気がする。筆者も、これまでの日本代表とは異なる戦法に新鮮な風を感じた。前体制の日本代表は、スクラム、ラインアウトから準備した攻撃を仕掛け、長い時間ボールをキープし、パスを多用し、常に自分達でゲームをコントロールしていくスタイルだった。選手達にはひたすら動き続けるハードワークが課されていたが、ジェイミー・ジョセフ新ヘッドコーチ率いる日本代表のスタイルはまったく違っていた。
相手のいないスペースにキックを使って防御を崩し、意図的にアンストラクチャー(組織化されていない状況)を作っていくのだ。そのため過去の日本代表では考えられないほどキックを使う。いったんボールを手放すので観ている方はハラハラするのだが、意図的に蹴って攻めさせているのでディフェンスは大崩れしない。11月5日のアルゼンチン戦は、戦術理解が進んでおらず、簡単にトライを奪われて完敗(20-54)。しかし、欧州遠征第1戦は、ジョージアのパワフルな攻めに苦しみながら効率よくトライを重ね、ジョセフヘッドコーチ体制での初勝利(28-22)をあげた。続くウェールズ戦では、約7万4000人という日本代表戦史上最多観客を前に、堂々たるパフォーマンス。キックで防御を崩してトライを獲りきり、世界ランキング5位(当時)のウェールズを追い詰めた。最後はドロップゴールを決められ、30-33で敗れたが、十分な手ごたえをつかむ試合だった。
新生・日本代表に大きな期待が寄せられたが、最終戦のフィジーには単調なキック戦法を逆襲されてしまう。この試合で日本代表はウェールズ戦と同じ先発メンバーで臨んだのだが、疲れもあってミスが多かった。走力あるフィジー相手に攻めさせ過ぎだとの声も多い。いずれにしても、キック戦略を遂行する正確なキックスキル、判断力が身についてないと感じる試合だった。しかし、昨年のラグビーワールドカップ(RWC)を経験していない選手が多数いるなかで、ジョージアを破り、ウェールズを追い詰めた戦いぶりは、日本ラグビー全体のレベルアップを感じさせるものだった。長谷川慎スクラムコーチ(ヤマハ発動機ジュビロ)はスクラムを短期間でまとめた。アタックコーチのトニー・ブラウンも戦術の説明が明快で、選手からポジティブな意見が多く聞かれた。2019年、日本で開催されるラグビーワールドカップ(RWC)に向かって、ジェイミー体制の悪くないスタートだった気がする。
筆者は11月19日、ウェールズのカーディフで行われた試合を現地で観戦した。日本代表応援ツアーの皆さんと客席で観戦したのだが、感心したのはウェールズの観客のマナーの良さだ。日本代表にトライをされると、さすがに静まり返るのだが、我々の席の前の人達は振り返って拍手をしてくれた。30-30の同点に追いついた時にも、「いいトライだ」と感心したようにこちらを見つめる人がいた。「あのウイングは頭がいい」と山田章仁選手のプレーを称賛する人もいたそうだ。試合後は周囲の観客から握手攻めにあった。「いい試合だった」、「日本はいいプレーをした」、「勝ってごめんなさい」。目の肥えた観客のフェアな態度が嬉しかった。
そして、RWC2019のことを想った。こうしたラグビーファンの皆さんが日本にやってきたとき、日本の観客の態度はどう映るだろう。日本と対戦するチームのトライに拍手がなかったらどう思うだろう。プレースキックを妨害するブーイングが起きたらどう感じるのだろう。もちろん、世界のラグビーファンが、すべてウェールズの観客のようにマナーが良いわけではない。しかし、少なくともラグビー発祥国イングランドはじめ、ウェールズ、スコットランド、アイルランドの観客は「静」と「動」を巧みに使い分け、相手チームへのリスペクトを忘れず、ラグビーを楽しむ。できれば、そんなラグビー文化が日本にも浸透していることを、世界のラグビーファンに見てもらいたい。
そのためには地道な啓蒙活動が必要だろう。ウェールズ戦の翌日、ラグビー発祥の地「ラグビー」に行き、ラグビーの歴史や、ラグビー殿堂入りした選手、人物を紹介している博物館に行ってきた。そこにも、ラグビー憲章の5つの言葉が掲げられ、ラグビーが大切にしてきた精神が説明されていた。こうした努力をしているからこそ、スタジアムのマナーは守られているのだと思う。5つの言葉を改めて記しておきたい。品位(INTEGRITY)、情熱(PASSION)、結束(SOLIDARITY)、規律(DISCIPLINE)、尊重(RESPECT)。
12月24日は、各地でRWC2019まで、「1000日前」のイベントが行われる。あと1000日、神戸でもさまざまな大会の周知活動が行われるだろう。そんなとき、ラグビーが大切にしてきた精神と観戦文化を伝えてほしい。長いようで短い1000日を大切に過ごしてもらいたいと思う。
10月28日、11月の日本代表メンバー32名が発表された。スローガンは「ONE TEAM」。ジェイミー・ジョセフヘッドコーチの指導の下、一丸となって2019年のラグビーワールドカップ(RWC)に向かってこうという意気込みだ。ジョセフHCが「コーチが決めた言葉を押し付けたくない」と選手に考えさせたという。今回のメンバーは、昨年のRWCメンバーは12名しか残らず、初代表が17名というフレッシュな顔ぶれ。35歳で初代表入りとなった仲谷聖史(ヤマハ発動機)、リコーのルーキー松橋周平、セブンズ日本代表でオリンピックに出場したレメキ ロマノ ラヴァ(ホンダ)など年齢層もバックボーンもさまざま。だからこそのスローガンである。
チームをまとめるキャプテンは経験豊富な堀江翔太(パナソニック)、立川理道(クボタ)が共同で務める。リーダーの責任を分散させる手法はニュージーランドではよく用いられるが、日本代表では初めてのことだ。「1人では不安が多かったと思いますが、信頼できるハル(立川)となら安心してキャプテンを務めることができます。この11月は2019年に向けての大事な4戦なので、ハルと協力しながらチームをまとめていきたい」(堀江)。「前回のRWC以上の戦績を日本開催の2019年大会で残せるように、堀江キャプテンとともにチームの先頭に立ち、みんなを引っ張っていきたい」(立川)
ニュージーランドのハイランダーズでジョセフの右腕だったトニー・ブラウンのアタック(攻撃)コーチ就任に続き、トップリーグ随一のスクラムの強さを誇るヤマハ発動機の長谷川慎FWコーチがスクラムコーチとして加入したのは心強い。10月、トップリーグの激闘の合間を縫って行われた2度のミニ合宿では、さっそく、ブラウンコーチが攻撃面の方向性を示し、長谷川コーチは「ジャパン・オリジナル」のスクラムを指導した。失われた一年という見方もできるが、時間は戻ってこない。急ピッチの強化が求められる。
初陣は、11月5日、秩父宮ラグビー場(東京都港区)で行われる。昨年のRWCでベスト4に進出したアルゼンチン代表が相手だ。今年の8月~10月にかけてはザ・ラグビーチャンピオンシップ(南半球四か国対抗)で、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカといった強豪国と戦っており、チームの仕上がりは日本代表より上だ。強力なスクラムを武器に、パワーでねじふせようとする相手に国際舞台の経験の浅い日本代表メンバーがどこまで太刀打ちできるのか。トップリーグで首位を走るヤマハ発動機から7名が選出されるなど、現在、調子のいい選手が多く、トップリーグの真価が問われる試合でもある。結果はどうあれ、日本代表のアタックの方向性が理解でき、2019年に向かって希望の持てる試合内容に期待したい。ファンの皆さんには、ぜひとも11月5日の戦いを注目していただきたい。将来、ジェイミー・ジャパンの歴史を語る上で欠かせない試合になることは間違いないし、新しいスターが誕生するかもしれないのだから。
10月20日、多くのラグビーファン、関係者を悲しませる訃報があった。日本代表の選手、監督を務め、神戸製鋼の日本選手権七連覇の中心だった平尾誠二さんが天に召されたのだ。2019年のRWCに向けては、開催地の神戸市としても貴重な人を失ったことになる。平尾さんは三連覇までキャプテンを務め、その後もゲームリーダーとして七連覇までフィールドに立ち続けた。その雄姿は神戸市民にとっても忘れがたい思い出だろう。平尾さんは、同志社大学卒業後、イギリスに留学したが、その前に受けた取材記事が当時は許されていなかった商品の宣伝にあたるとしてアマチュア規定違反の疑いを受けたことがある。そのため、選手として抜群の才能がありながら、企業チームからはほとんど声がかからなかった。そんな中、唯一声をかけたのが神戸製鋼だった。恩義を感じた平尾さんは神戸製鋼ラグビー部の強化に尽力し、以降のラグビー人生を神戸で過ごした。夜は神戸の行きつけのバーで店主や仲間と語らい、飾り気のない素顔を見せた。1980年から90年代、人気絶頂期の日本ラグビーを牽引した平尾さんが、人生の半分以上を生きた街であったことを、神戸の皆さんには憶えていてほしいし、誇りを持ってもらいたい。
平尾さんは、ラグビーワールドカップ2019組織委員会の理事も務めていて日本大会の成功を誰よりも願っていた。平尾さんは、京都の伏見工業高校、同志社大学、神戸製鋼で11度の日本一に輝いている。そのほとんどで彼はチームリーダーだった。なぜ彼は勝ち続けることができたのか。常に自分の知識を更新し、相手を分析して上回る戦法を熟慮し、周到に準備して試合に臨んでいたからだ。2019年までには、いくつかの山がある。2017年5月の組み合わせ抽選会、キャンプ地の決定、チケット発売開始などだ。節目節目で手を打ち、神戸らしさを追求しつつ盛り上げてほしい。もうひとつ、平尾さんは選手に対するリスペクトを失わない人だった。RWCも選手が最高のパフォーマンスを発揮できる環境を整えることが第一だろう。「神戸がもっとも快適にプレーできました」。世界のトップ選手からそんな感想が聞かれることこそ、最高の名誉。それを、多くのファンも望んでいる気がする。
ラグビー日本代表が南アフリカ代表に勝利したあの日、2015年9月19日(日本時間20日)から一年が経過した。同時に、日本で開催されるラグビーワールドカップ(RWC)2019の開幕まで、丸3年となった。この一年、日本のラグビー界は激動の日々を送った。日本代表選手の多数が参加するトップリーグは史上最高の観客数を記録。2016年2月から7月にかけては、世界最高峰のプロリーグ「スーパーラグビー」に日本チーム「サンウルブズ」が参戦し、南アフリカやオーストラリアの強豪クラブと毎週のように戦った。
サンウルブズのホーム、秩父宮ラグビー場(東京都港区)での試合では、平均観客数が17,246人(5試合)となり、トップリーグの人気チームのホーム平均観客数よりも高い数字を残した。
この間、日本代表の試合も並行して行われ、6月のスコットランド代表来日試合には連敗したが、愛知県の豊田スタジアムでは、24,113人、東京の味の素スタジアムでは、34,073人と、日本代表戦の観客数を実数で公表するようになって以降、最多記録を更新した。日本を代表するチームを応援する観客は明らかに増加傾向にある。
しかし、8月26日に開幕したトップリーグ2016-2017では、注目された王者パナソニックワイルドナイツ対ヤマハ発動機ジュビロの試合でも1万人に届かず、昨年の勢いは感じられない。
内容的には質が高く、手に汗握る展開ばかりなのに、なぜ観客が少ないのか。運営サイドは、今一度、知恵を絞らなくてはいけない。
そして、ラグビーファンが待ちに待った新生・日本代表が、この秋ようやく本格始動する。日本代表が勝てばファンは活気づき、一般国民の関心も高まる。昨年の日本代表が証明したことだ。
日本代表の新ヘッドコーチは、2016年1月にはニュージーランド(NZ)人のジェイミー・ジョセフに決まっていたが、NZラグビー協会との契約が8月まで残っていたため、この春は暫定的な指導体制で試合を行った。ジョセフヘッドコーチは、NZ代表のFW第三列で活躍し、1995年のRWC以降は日本のサニックスでプレー。その後、NZでコーチとして実績を積んできた。NZ南島のオタゴ地区を本拠地にしたハイランダーズを率いて、スーパーラグビーを制するなどその手腕には定評がある。ジョセフの右腕であり、戦術面のコーチとして評価の高いトニー・ブラウンも日本代表のアタック(攻撃)コーチ就任が決まった。
日本開催のRWCまで3年を切った今、ジョセフ体制にかかる期待は大きい。求められるのは2019年大会に向かって期待の持てる過程を発信していくことだ。昨年のRWCでは、一次リーグ(プール)で3勝1敗という好成績を残しながら、勝ち点差で目標の決勝トーナメント進出は逃した。
2019年大会の目標は初の決勝トーナメント進出になるが、そのためにはベスト4(準決勝進出)を目指さなくてはいけない。それが可能な準備をしなければ、決勝トーナメントにすら進めないだろう。
11月5日、昨年のRWCでベスト4入りしたアルゼンチン代表の来日試合が、ジョセフ・ジャパンの初陣となる。その後のヨーロッパ遠征でジョージア、ウェールズ、フィジーと戦うが、まずは、この4戦に勝ち越したい。メンバー編成は、堀江翔太(パナソニック)、立川理道(クボタ)など昨年のRWCメンバーを軸に、2019年での飛躍が期待される新戦力を織り交ぜることになるだろう。
結果を出しながら新戦力を育てるという難しい強化が求められるが、昨年のRWCとサンウルブズでの経験によって、前体制(エディー・ジョーンズヘッドコーチ)よりも世界レベルで戦える選手は増えている。主力選手をうまく休ませながら選手層を厚くしていきたい。RWCでトップ4になるまでには、プール4試合、準々決勝まで続く5連戦で高いパフォーマンスを発揮できるタフなチームを作らなければいけないからだ。
ただし、RWC2019を盛り上げる役目を日本代表だけに背負わせてはいけない。これは大会組織委員会の仕事でもあるが、開催地に決まっている自治体には、日本代表を応援すると同時に、RWCそのものの魅力、ラグビーという競技の独自性、参加各国のチームの特徴や選手のキャラクターなどを伝えてもらいたい。
昨年のRWCは、ラグビー精神を世界にアピールした。レフリーに文句を言う選手がおらず、反則のアピールをする選手も少なく、選手がペナルティーゴールを狙う時はスタジアムが静寂に包まれた。日本に負けて暴れ出す南アフリカサポーターはいなかった。選手も観客も相手チームやレフリーを尊重し、ラグビーが大切にしてきたマナーを守っていたのだ。
このような、他のスポーツや社会に良い影響を与えうるラグビー文化についても、多くの人々に伝えてほしい。
大切なことは、開催地の皆さんがラグビー界最高峰の祭典がやってくるまでの準備を大いに楽しむことだろう。2019年に各スタジアムが満員になったとき、最高の充実感を得られる3年間を過ごしてもらいたい。
ラグビーワールドカップ2019神戸開催の成功に向けて、ラグビージャーナリストとしてご活躍中の村上晃一さんにメッセージをいただきました。